易占の六十四卦の意味  【周易上經】 (1)~(10)



   乾下:乾上   乾 (1)

 

【原文】

元亨。利貞。乾、渠焉反。○六畫者、伏羲所畫之卦也。

━者、奇也。陽之數也。乾者、健也。陽之性也。本註乾字、三畫卦之名也。下者、内卦也。上者、外卦也。經文乾字、六畫卦之名也。伏羲仰觀俯察、見陰陽有奇耦之數。故畫一奇以象陽、畫一耦以象陰。見一陰一陽有各生一陰一陽之象。故自下而上、再倍而三、以成八卦。見陽之性健、而其成形之大者爲天。故三奇之卦、名之曰乾、而擬之於天也。三畫已具、八卦已成、則又三倍其畫以成六畫。而於八卦之上、各加八卦、以成六十四卦也。此卦六畫皆奇、上下皆乾、則陽之純而健之至也。故乾之名、天之象、皆不易焉。元亨利貞、文王所繫之辭、以斷一卦之吉凶。所謂彖辭者也。元、大也。亨、通也。利、宜也。貞、正而固也。文王以爲乾道大通而至正。故於筮得此卦、而六爻皆不變者、言其占當得大通、而必利在正固、然後可以保其終也。此聖人所以作易敎人卜筮、而可以開物成務之精意。餘卦放此。
 


○乾(けん)

元[おお]いに亨[とお]る。貞[ただ]しきに利[よ]ろし。乾は、渠焉の反。○六畫は、伏羲の畫する所の卦なり。

━は、奇なり。陽の數なり。乾は、健なり。陽の性なり。本註の乾の字は、三畫卦の名なり。下は、内卦なり。上は、外卦なり。經文の乾の字は、六畫卦の名なり。伏羲は仰いで觀て俯して察し、陰陽に奇耦の數有るを見る。故に一奇を畫して以て陽に象り、一耦を畫して以て陰に象る。一陰一陽各々一陰一陽を生ずるの象有るを見る。故に下よりして上、再倍すること三たび、以て八卦を成す。陽の性は健にして、其の形を成すの大いなる者は天と爲るを見る。故に三奇の卦は、之を名づけて乾と曰い、而して之を天に擬す。三畫已に具わり、八卦已に成れば、則ち又其の畫を三倍して以て六畫を成す。而して八卦の上に於て、各々八卦を加えて、以て六十四卦を成すなり。此の卦の六畫は皆奇にて、上下皆乾なれば、則ち陽の純にして健の至りなり。故に乾の名、天の象なること、皆易わらず。元いに亨り貞しきに利ろしは、文王繫ける所の辭にて、以て一卦の吉凶を斷ず。所謂彖辭なる者なり。元は、大いなり。亨は、通るなり。利は、宜しきなり。貞は、正しくして固きなり。文王以爲えらく、乾道は大いに通りて正しきに至る、と。故に筮して此の卦を得て、六爻皆變ぜざる者に於て、其の占は當に大いに通るを得べく、而して必ず利ろしきこと正固に在り、然して後に以て其の終わりを保つ可きを言うなり。此れ聖人の易を作り人に卜筮を敎うる所以にして、以て物を開き務めを成す可きの精意なり。餘の卦も此に放え。

 

●初九

潛龍勿用。潛、捷言反。○初九者、卦下陽爻之名。凡畫卦者自下而上。故以下爻爲初。陽數九爲老。七爲少。老變而少不變。故謂陽爻爲九。潛龍勿用、周公所繫之辭、以斷一爻之吉凶。所謂爻辭者也。潛、藏也。龍、陽物也。初陽在下、未可施用。故其象爲潛龍。其占曰勿用。凡遇乾而此爻變者、當觀此象而玩其占也。餘爻放此。
 
○初九

潛龍用うること勿かれ。潛は、捷言の反。○初九は、卦の下の陽爻の名。凡そ卦を畫するは下よりして上。故に下爻を以て初と爲す。陽數は九を老と爲す。七を少と爲す。老は變じて少は變ぜず。故に陽爻を謂いて九と爲す。潛龍用うること勿かれとは、周公の繫ける所の辭にて、以て一爻の吉凶を斷ず。所謂爻辭なる者なり。潛とは、藏[かく]るるなり。龍とは、陽物なり。初陽下に在り、未だ施し用うる可からず。故に其の象を潛龍と爲す。其の占は用うること勿かれと曰う。凡そ乾に遇いて此の爻の變ずる者は、當に此の象を觀て其の占を玩ぶべきなり。餘の爻も此に放え。
 


 

●九二

見龍在田。利見大人。見龍之見、賢遍反。卦内見龍並同。○二、謂自下而上、第二爻也。後放此。九二剛健中正、出潛離隱、澤及於物、物所利見。故其象爲見龍在田、其占爲利見大人。九二雖未得位、而大人之德已著。常人不足以當之。故値此爻之變者、但爲利見此人而已。蓋亦謂在下之大人也。此以爻與占者相爲主賓、自爲一例。若有見龍之德、則爲利見九五在上之大人矣。
 

○九二

見龍田に在り。大人を見るに利ろし。見龍の見は、賢遍の反。卦の内の見龍も並同じ。○二とは、下より上、第二爻を謂うなり。後も此に放え。九二は剛健中正、潛を出で隱を離れ、澤の物に及び、物の見るに利ろしき所なり。故に其の象は見龍田に在りと爲し、其の占は大人を見るに利ろしと爲す。九二は未だ位を得ずと雖も、而して大人の德已に著る。常人は以て之に當たるに足らず。故に此の爻の變に値う者は、但此の人を見るに利ろしと爲すのみ。蓋し亦下に在るの大人を謂うならん。此れ爻と占者とを以て主賓と相爲すの、自ら一例と爲す。若し見龍の德有れば、則ち九五上に在るの大人を見るに利ろしと爲すなり。

 

 

●九三

君子終日乾乾、夕惕若。厲无咎。九、陽爻。三、陽位。重剛不中、居下之上。乃危地也。然性體剛健、有能乾乾惕厲之象。故其占如此。君子指占者而言。言能憂懼如是、則雖處危地而无咎也。
 

○九三

君子終日乾乾し、夕べに惕若たり。厲[あや]うけれども咎无[な]し。九は、陽爻。三は、陽位。重剛不中、下の上に居る。乃ち危地なり。然れども性體剛健なれば、能く乾乾惕厲の象有り。故に其の占此の如し。君子とは占者を指して言う。言うこころは、能く憂懼すること是の如くなれば、則ち危地に處ると雖も咎无し、と。

 

 

●九四

或躍在淵。无咎。躍、羊灼反。○或者、疑而未定之辭。躍者、无所緣而絶於地、特未飛爾。淵者、上空下洞、深昧不測之所。龍之在是、若下於田。或躍而起、則向乎天矣。九陽四陰、居上之下、改革之際、進退未定之時也。故其象如此。其占能隨時進退、則无咎也。
 

○九四

或は躍りて淵に在り。咎无し。躍は、羊灼の反。○或は、疑いて未だ定まらざるの辭。躍るは、緣る所无くして地に絶えども、特未だ飛ばざるのみ。淵は、上は空しく下は洞にて、深昧不測の所。龍の是に在るは、田より下るが若し。或は躍りて起きれば、則ち天に向かうなり。九は陽にて四は陰、上の下に居り、改革の際、進退未だ定まらざるの時なり。故に其の象此の如し。其の占は能く時に隨いて進退すれば、則ち咎无きとなり。

 

●九五

飛龍在天。利見大人。剛健中正以居尊位。如以聖人之德、居聖人之位。故其象如此。而占法與九二同、特所利見者在上之大人爾。若有其位、則爲利見九二在下之大人也。
 

○九五

飛龍天に在り。大人を見るに利ろし。剛健中正以て尊位に居る。聖人の德を以て、聖人の位に居るが如し。故に其の象此の如し。而して占法は九二と同じく、特見るに利ろしき所の者は上に在るの大人のみ。若し其の位有れば、則ち九二の下に在るの大人を見るに利ろしと爲すなり。
 


●上九

亢龍有悔。亢、苦浪反。○上者、最上一爻之名。亢者、過於上而不能下之意也。陽極於上、動必有悔。故其象占如此。
 

○上九

亢龍悔有り。亢は、苦浪の反。○上は、最上の一爻の名。亢は、上るに過ぎて下ること能わざるの意なり。陽上に極まり、動けば必ず悔有り。故に其の象占此の如し。

 

 

●用九

見羣龍无首。吉。用九、言凡筮得陽爻者、皆用九而不用七。蓋諸卦百九十二陽爻之通例也。以此卦純陽而居首、故於此發之。而聖人因繫之辭、使遇此卦而六爻皆變者、卽此占之。蓋六陽皆變、剛而能柔、吉之道也。故爲羣龍无首之象。而其占爲如是則吉也。春秋傳曰、乾之坤、曰見羣龍无首吉。蓋卽純坤卦辭牝馬之貞、先迷後得、東北喪朋之意。
 

○用九

羣龍首无きを見る。吉なり。用九とは、凡そ筮して陽爻を得る者は、皆九を用いて七を用いざるを言う。蓋し諸卦百九十二の陽爻の通例なり。此の卦は純陽にして首めに居るを以て、故に此に於て之を發す。而して聖人因りて之が辭を繫け、此の卦に遇いて六爻皆變ずる者は、此に卽いて之を占わしむ。蓋し六陽皆變ずれば、剛にして能く柔にて、吉の道なり。故に羣龍首无きの象と爲す。而して其の占は是の如くなれば則ち吉と爲すなり。春秋傳に曰く、乾の坤に之く、曰く、羣龍首无きを見る、吉なり、と。蓋し卽ち純坤の卦辭の牝馬の貞しき、先んずれば迷い後るれば得、東北には朋を喪うの意ならん。

 

 



  坤下:坤上  坤  (2)



●坤

元亨。利牝馬之貞。君子有攸往、先迷、後得。主利。西南得朋、東北喪朋。安貞吉。牝、頻忍反。喪、去聲。

-- 者、耦也。陰之數也。坤者、順也。陰之性也。註中者、三畫卦之名也。經中者、六畫卦之名也。陰之成形、莫大於地。此卦三畫皆耦。故名坤而象地。重之又得坤焉、則是陰之純、順之至。故其名與象皆不易也。牝馬、順而健行者。陽先陰後、陽主義、陰主利。西南、陰方。東北、陽方。安、順之爲也。貞、健之守也。遇此卦者、其占爲大亨、而利以順健爲正。如有所往、則先迷後得而主於利。往西南則得朋、往東北則喪朋。大抵能安於正則吉也。
 

○坤(こん)

元いに亨る。牝馬の貞に利ろし。君子往く攸[ところ]有るに、先んずれば迷い、後るれば得。利を主とす。西南には朋を得、東北には朋を喪う。貞に安んずれば吉なり。牝は、頻忍の反。喪は、去聲。

-- は、耦なり。陰の數なり。坤は、順なり。陰の性なり。註の中は、三畫卦の名なり。經の中は、六畫卦の名なり。陰の形を成すは、地より大いなるは莫し。此の卦の三畫は皆耦。故に坤と名づけて地に象る。之を重ねて又坤を得れば、則ち是れ陰の純にて、順の至りなり。故に其の名と象とは皆易わらざるなり。牝馬とは、順にして健やかに行く者。陽は先んじ陰は後れ、陽は義を主り、陰は利を主る。西南は、陰の方。東北は、陽の方。安んずとは、順いて之を爲すなり。貞とは、健を之れ守るなり。此の卦に遇う者は、其の占は大いに亨りて、順健を以て正と爲すに利ろしと爲す。如し往く所有れば、則ち先んずれば迷い後るれば得て利を主とす。西南に往けば則ち朋を得、東北に往けば則ち朋を喪う。大抵能く正に安んずれば則ち吉なり。
 


●初六

履霜。堅冰至。六、陰爻之名。陰數六老而八少。故謂陰爻爲六也。霜、陰氣所結。盛則水凍而爲冰。此爻陰始生於下。其端甚微、而其勢必盛。故其象如履霜、則知堅冰之將至也。夫陰陽者、造化之本、不能相无。而消長有常、亦非人所能損益也。然陽主生、陰主殺、則其類有淑慝之分焉。故聖人作易、於其不能相无者、旣以健順仁義之屬明之、而无所偏主。至其消長之際、淑慝之分、則未嘗不致其扶陽抑陰之意焉。蓋所以贊化育而參天地者、其旨深矣。不言其占者、謹微之意、已可見於象中矣。
 

○初六

霜を履む。堅冰至る。六とは、陰爻の名。陰數六は老にして八は少。故に陰爻を謂いて六と爲すなり。霜とは、陰氣の結する所。盛んなれば則ち水凍りて冰と爲る。此の爻は陰始めて下に生ずるなり。其の端は甚だ微かにして、其の勢いは必ず盛んなり。故に其の象は霜を履めば、則ち堅冰の將に至らんとするを知るが如し。夫れ陰陽は、造化の本にて、相无きこと能わず。而して消長に常有り、亦人の能く損益する所に非ざるなり。然れども陽は生を主り、陰は殺を主れば、則ち其の類に淑慝の分有り。故に聖人の易を作るや、其の相无きこと能わざる者に於て、旣に健順仁義の屬を以て之を明らかにすれども、而して偏主する所无し。其の消長の際、淑慝の分に至りては、則ち未だ嘗て其の陽を扶け陰を抑えるの意を致さずんばあらず。蓋し化育を贊けて天地に參なる所以の者は、其の旨深からん。其の占を言わざるは、微を謹むの意、已に象中に見る可きなればなり。


●六二

直・方・大。不習无不利。柔順正固、坤之直也。賦形有定、坤之方也。德合无疆、坤之大也。六二柔順而中正、又得坤道之純者。故其德内直外方而又盛大、不待學習而无不利。占者有其德、則其占如是也。
 

○六二

直・方・大なり。習わざれども利ろしからざること无し。柔順にて正固なるは、坤の直なり。形を賦して定め有るは、坤の方なり。德の无疆に合するは、坤の大なり。六二は柔順にして中正、又坤道の純を得る者。故に其の德は内は直に外は方にして又盛大、學習を待たずして利ろしからざること无し。占者其の德有れば、則ち其の占是の如し。


●六三

含章可貞。或從王事、无成有終。六陰三陽。内含章美、可貞以守。然居下之上、不終含藏。故或時出而從上之事、則始雖无成、而後必有終。爻有此象。故戒占者有此德、則如此占也。
 

○六三

章[あや]を含みて貞にす可し。或は王事に從うも、成すこと无くして終わり有り。六は陰にて三は陽。内に章美を含めども、貞以て守る可し。然れども下の上に居れば、含藏するを終えず。故に或は時に出でて上の事に從えば、則ち始めは成すこと无しと雖も、而して後に必ず終わり有り。爻に此の象有り。故に占者を戒むるに、此の德有れば、則ち此の占の如し、と。

 

 

 

●六四

括囊。无咎无譽。括、古活反。譽、音餘。又音預。○括囊、言結囊口而不出也。譽者、過實之名。謹密如是、則无咎而亦无譽矣。六四重陰不中。故其象占如此。蓋或事當謹密、或時當隱遯也。
 

○六四

囊を括る。咎も无く譽れも无し。括は、古活の反。譽は、音餘。又音預。○囊を括るとは、囊の口を結びて出さざるを言うなり。譽れは、實に過ぐるの名。謹密なること是の如くなれば、則ち咎无くして亦譽れも无し。六四は重陰にて不中。故に其の象占此の如し。蓋し或は事に當に謹密にすべく、或は時に當に隱遯すべきならん。


●六五

黄裳。元吉。黄、中色。裳、下飾。六五以陰居尊、中順之德、充諸内而見於外。故其象如此、而其占爲大善之吉也。占者德必如是、則其占亦如是矣。春秋傳、南蒯將叛、筮得此爻、以爲大吉。子服惠伯曰、忠信之事則可、不然必敗。外彊内溫、忠也。和以率貞、信也。故曰黄裳、元吉。黄、中之色也。裳、下之飾也。元、善之長也。中不忠、不得其色。下不共、不得其飾、事不善、不得其極。且夫易不可以占險。三者有闕、筮雖當未也。後蒯果敗。此可以見占法矣。
 

○六五

黄裳なり。元吉なり。黄は、中の色。裳は、下の飾り。六五は陰を以て尊きに居り、中順の德、諸を内に充たして外に見る。故に其の象此の如くして、其の占は大善の吉と爲すなり。占者の德必ず是の如くなれば、則ち其の占も亦是の如し。春秋傳に、南蒯將に叛かんとして、筮して此の爻を得、以て大吉と爲す。子服惠伯曰く、忠信の事は則ち可なれども、然らざれば必ず敗る。外彊く内溫やかなるは、忠なり。和以て貞に率うは、信なり。故に曰く、黄裳なり、元吉なり、と。黄は、中の色なり。裳は、下の飾りなり。元は、善の長なり。中、忠ならざれば、其の色を得ず。下、共にせざれば、其の飾りを得ず、事、善ならざれば、其の極を得ず。且つ夫れ易は以て險を占う可からず。三つの者に闕有れば、筮して當たると雖も未だし、と。後蒯果たして敗る。此れ以て占法を見る可し。

 

 

 

●上六

龍戰于野。其血玄黄。陰盛之極。至與陽爭、兩敗倶傷。其象如此。占者如是、其凶可知。
 

○上六

龍野に戰う。其の血玄黄なり。陰盛んの極みなり。陽と爭うに至り、兩つ敗れ倶に傷む。其の象此の如し。占者是の如くなれば、其の凶なること知る可し。

 

●用六

利永貞。用六、言凡筮得陰爻者、皆用六而不用八、亦通例也。以此卦純陰而居首、故發之。遇此卦而六爻倶變者、其占如此辭。蓋陰柔而不能固守、變而爲陽、則能永貞矣。故戒占者以利永貞。卽乾之利貞也。自坤而變。故不足於元亨云。
 

○用六

永く貞しきに利ろし。用六は、凡そ筮して陰爻を得る者は、皆六を用いて八を用いざるを言い、亦通例なり。此の卦純陰にして首めに居るを以て、故に之を發す。此の卦に遇いて六爻倶に變ずる者は、其の占此の辭の如し。蓋し陰柔にして固く守ること能わざれども、變じて陽と爲れば、則ち能く永く貞しきなり。故に占者を戒むるに永く貞しきに利ろしを以てす。卽ち乾の貞しきに利ろしなり。坤よりして變ず。故に元いに亨るには足らずと云う。

 

 



  震下:坎上  屯 (3)

 

屯、元亨。利貞。勿用有攸往。利建侯。屯、張倫反。○震・坎、皆三畫卦之名。震、一陽動於二陰之下。故其德爲動、其象爲雷。坎、一陽陷於二陰之閒。故其德爲陷爲險、其象爲雲爲雨爲水。屯、六畫卦之名也。難也。物始生而未通之意。故其爲字、象草穿地始出而未申也。其卦以震遇坎、乾坤始交而遇險陷。故其名爲屯。震動在下、坎險在上。是能動乎險中。能動雖可以亨、而在險則宜守正、而未可遽進。故筮得之者、其占爲大亨而利於正、但未可遽有所往耳。又初九陽居陰下、而爲成卦之主。是能以賢下人、得民而可君之象。故筮立君者、遇之則吉也。
 

屯[ちゅん]

元いに亨る。貞しきに利ろし。往く攸有るに用うること勿かれ。侯[きみ]を建つるに利ろし。屯は、張倫の反。○震・坎は、皆三畫卦の名。震は、一陽、二陰の下に動く。故に其の德は動と爲し、其の象は雷と爲す。坎は、一陽、二陰の閒に陷る。故に其の德は陷と爲し險と爲し、其の象は雲と爲し雨と爲し水と爲す。屯は、六畫卦の名なり。難なり。物始めて生じて未だ通ぜざるの意。故に其の字爲るや、草の地を穿ち始めて出でて未だ申びざるを象るなり。其の卦は震を以て坎に遇い、乾坤始めて交わりて險陷に遇う。故に其の名を屯と爲す。震動下に在り、坎險上に在り。是れ能く險中に動くなり。能く動けば以て亨る可きと雖も、而して險に在れば則ち宜しく正しきを守るべくして、未だ遽に進む可からず。故に筮して之を得る者は、其の占は大いに亨りて正しきに利ろしと爲し、但未だ遽に往く所有る可からざるのみ。又初九の陽は陰の下に居れども、而して成卦の主を爲す。是れ能く賢を以て人に下り、民を得て君たる可きの象なり。故に君を立つるを筮する者は、之に遇えば則ち吉なり。

●初九

磐桓。利居貞。利建侯。磐、歩干反。○磐桓、難進之貌。屯難之初、以陽在下、又居動體、而上應陰柔險陷之爻。故有磐桓之象。然居得其正。故其占利於居貞。又本成卦之主、以陽下陰、爲民所歸。侯之象也。故其象又如此。而占者如是、則利建以爲侯也。
 

○初九

磐桓たり。貞に居るに利ろし。侯を建つるに利ろし。磐は、歩干の反。○磐桓とは、進み難き貌。屯難の初め、陽を以て下に在り、又動の體に居り、而して上は陰柔險陷の爻に應ず。故に磐桓の象有り。然れども居るに其の正を得る。故に其の占は貞に居るに利ろし。又本成卦の主にて、陽を以て陰に下り、民の歸す所と爲す。侯の象なり。故に其の象も又此の如し。而して占者是の如くなれば、則ち建つるに以て侯と爲すに利ろし。


●六二

屯如、邅如、乘馬班如。匪寇婚媾。女子貞不字、十年乃字。邅、張連反。乘、繩澄反。又音繩。○班、分布不進之貌。字、許嫁也。禮曰、女子許嫁、筓而字。六二陰柔中正、有應於上、而乘初剛。故爲所難而邅回不進。然初非爲寇也、乃求與己爲婚媾耳。但己守正。故不之許。至於十年、數窮理極、則妄求者去、正應者合、而可許矣。爻有此象。故因以戒占者。
 

○六二

屯如たり、邅如[てんじょ]たり、馬に乘りて班如たり。寇[あだ]するに匪[あら]ず、婚媾[こんこう]せんとす。女子貞にして字せず、十年にして乃ち字す。邅は、張連の反。乘は、繩澄の反。又音繩。○班とは、分布して進まざるの貌。字とは、許嫁なり。禮に曰く、女子許嫁すれば、筓して字す、と。六二は陰柔中正、上に應有りて、初剛に乘る。故に難き所と爲りて邅回して進まず。然れども初は寇を爲すに非ず、乃ち己と婚媾を爲さんと求むのみ。但己は正しきを守る。故に之を許さず。十年に至り、數窮まり理極まれば、則ち妄りに求むる者去り、正應なる者合い、而して許さる可し。爻に此の象有り。故に因りて以て占者を戒む。

 

●六三

卽鹿无虞。惟入于林中。君子幾不如舍。往吝。幾、音機。舍、音捨。象同。○陰柔居下、不中不正、上无正應、妄行取困。爲逐鹿无虞、陷入林中之象。君子見幾、不如舍去。若往逐而不舍、必致羞吝。戒占者宜如是也。

○六三

鹿に卽[つ]くに虞无し。惟林中に入る。君子は幾をみて舍[や]むるに如かず。往けば吝なり。幾は、音機。舍は、音捨。象も同じ。○陰柔下に居り、不中不正、上に正應无く、妄りに行けば困を取る。鹿を逐うに虞无く、林中に陷入するの象と爲す。君子幾を見れば、舍去するに如かず。若し往きて逐いて舍まざれば、必ず羞吝を致す。占者を戒むるに宜しく是の如くすべし、と。

 

●六四

乘馬班如。求婚媾。往吉无不利。陰柔居屯、不能上進。故爲乘馬班如之象。然初九守正居下、以應於己。故其占爲下求婚媾則吉也。
 

○六四

馬に乘りて班如たり。婚媾を求む。往けば吉にして利ろしからざること无し。陰柔にて屯に居り、上り進むこと能わず。故に馬に乘りて班如たりの象と爲す。然れども初九は正しきを守りて下に居り、以て己に應ず。故に其の占は下に婚媾を求むれば則ち吉と爲す。


●九五

屯其膏。小貞吉、大貞凶。九五雖以陽剛中正居尊位、然當屯之時、陷於險中。雖有六二正應、而陰柔才弱、不足以濟。初九得民於下、衆皆歸之。九五坎體、有膏潤而不得施、爲屯其膏之象。占者以處小事、則守正猶可獲吉、以處大事、則雖正而不免於凶。
 

○九五

其の膏[めぐみ]を屯[とどこお]らす。小貞なれば吉、大貞なれば凶なり。九五は陽剛中正を以て尊位に居ると雖も、然れども屯の時に當たり、險中に陷る。六二の正應有りと雖も、而して陰柔にて才弱く、以て濟うに足らず。初九は民を下に得、衆は皆之に歸す。九五は坎の體、膏潤有りて施すことを得ず、其の膏を屯らすの象と爲す。占者以て小事を處すれば、則ち正しきを守りて猶吉を獲可く、以て大事を處すれば、則ち正しきと雖も而して凶を免れず。
*正・・・山崎嘉点は「正」、他の本では「守正」。


●上六

乘馬班如。泣血漣如。陰柔无應、處屯之終、進无所之、憂懼而已。故其象如此。
 

○上六

馬に乘りて班如たり。泣血漣如たり。陰柔にて應无く、屯の終わりに處り、進むに之く所无く、憂懼するのみ。故に其の象此の如し。

 

 


 


  坎下:艮上  蒙  (4)


蒙、亨。匪我求童蒙。童蒙求我。初筮告。再三瀆。瀆則不告。利貞。告、音谷。三、息暫反。瀆、音獨。○艮、亦三畫卦之名。一陽止於二陰之上。故其德爲止、其象爲山。蒙、昧也。物生之初、蒙昧未明也。其卦以坎遇艮。山下有儉、蒙之地也。内險外止、蒙之意也。故其名爲蒙。亨以下、占辭也。九二内卦之主、以剛居中、能發人之蒙者、而與六五陰陽相應。故遇此卦者、有亨道也。我、二也。童蒙、幼穉而蒙昧、謂五也。筮者明、則人當求我而其亨在人、筮者暗、則我當求人而亨在我。人求我者、當視其可否而應之、我求人者、當致其精一而扣之。而明者之養蒙、與蒙者之自養、又皆利於以正也。
 

蒙(もう)

亨る。我より童蒙に求むるに匪ず。童蒙より我に求む。初筮は告ぐ。再三すれば瀆[けが]る。瀆るれば則ち告げず。貞しきに利ろし。告は、音谷。三は、息暫の反。瀆は、音獨。○艮とは、亦三畫卦の名。一陽、二陰の上に止まる。故に其の德は止まると爲し、其の象は山と爲す。蒙とは、昧なり。物生ずるの初めは、蒙昧未明なり。其の卦は坎を以て艮に遇う。山の下に儉有り、蒙の地なり。内險にて外止まるは、蒙の意なり。故に其の名を蒙と爲す。亨る以下は、占辭なり。九二は内卦の主にて、剛を以て中に居り、能く人の蒙を發く者にして、六五と陰陽相應ず。故に此の卦に遇う者は、亨る道有るなり。我とは、二なり。童蒙とは、幼穉にして蒙昧、五を謂うなり。筮する者明なれば、則ち人當に我に求むるべくして其の亨るは人に在り、筮する者暗ければ、則ち我當に人に求むるべくして亨るは我に在り。人の我に求むるは、當に其の可否を視て之に應ずべく、我の人に求むるは、當に其の精一を致して之を扣くべし。而して明者の蒙を養うと、蒙者の自ら養うとは、又皆正しきを以てするに利ろしきなり。

●初六

發蒙。利用刑人、用說桎梏。以往吝。說、吐活反。桎、音質。梏、古毒反。○以陰居下、蒙之甚也。占者遇此、當發其蒙。然發之之道、當痛懲而暫舍之、以觀其後。若遂往而不舍、則致羞吝矣。戒占者當如是也。
 

○初六

蒙を發[ひら]く。人を刑するに用い、桎梏を說[だっ]するに用うるに利ろし。以て往けば吝なり。說は、吐活の反。桎は、音質。梏は、古毒の反。○陰を以て下に居り、蒙の甚だしきなり。占者此に遇えば、當に其の蒙を發くべし。然れども之を發くの道は、當に痛懲して暫く之を舍き、以て其の後を觀るべし。若し遂に往きて舍かざれば、則ち羞吝を致すなり。占者を戒むるに、當に是の如くすべし、と。


●九二

包蒙、吉。納婦、吉。子克家。九二以陽剛爲内卦之主、統治羣陰。當發蒙之任者。然所治旣廣、物性不齊、不可一概取必。而爻之德剛而不過、爲能有所包容之象。又以陽受陰、爲納婦之象。又居下位而能任上事、爲子克家之象。故占者有其德而當其事、則如是而吉也。
 

○九二

蒙を包[か]ぬ、吉なり。婦[つま]を納る、吉なり。子家を克[おさ]む。九二は陽剛を以て内卦の主と爲り、羣陰を統べ治む。蒙を發くの任に當たる者なり。然れども治むる所旣に廣く、物の性は齊しからず、一概に必を取る可からず。而して爻の德は剛にして過ぎず、能く包容する所有るの象と爲す。又陽を以て陰を受け、婦を納るの象と爲す。又下位に居りて能く上の事を任じ、子家を克むの象と爲す。故に占者其の德有りて其の事に當たれば、則ち是の如くして吉なり。


●六三

勿用取女。見金夫、不有躬。无攸利。取、七具反。○六三陰柔不中不正、女之見金夫而不能有其身之象也。占者遇之、則其取女必得如是之人、无所利矣。金夫、蓋以金賂己而挑之。若魯秋胡之爲者。
 

○六三

女を取[めと]るに用うること勿かれ。金夫を見れば、躬を有たず。利ろしき攸无し。取は、七具の反。○六三は陰柔にて不中不正、女の金夫を見て其の身を有つこと能わざるの象なり。占者之に遇えば、則ち其れ女を取れば必ず是の如きの人得て、利ろしき所无し。金夫とは、蓋し金を以て己に賂して之を挑[そそのか]すなり。魯の秋胡の爲すが若き者なり。


●六四

困蒙。吝。旣遠於陽、又无正應、爲困於蒙之象。占者如是、可羞吝也。能求剛明之德而親近之、則可免矣。
 

○六四

蒙に困[くる]しむ。吝なり。旣に陽に遠くして、又正應无ければ、蒙に困しむの象と爲す。占者是の如くなれば、羞吝ある可し。能く剛明の德を求めて之に親しく近づけば、則ち免る可し。


●六五

童蒙。吉。柔中居尊、下應九二、純一未發、以聽於人。故其象爲童蒙。而其占爲如是則吉也。
 

○六五

童蒙なり。吉なり。柔中にて尊きに居り、下は九二に應じ、純一にて未だ發かず、以て人に聽[したが]う。故に其の象は童蒙と爲す。而して其の占是の如くなれば則ち吉と爲すなり。

 

●上九

擊蒙。不利爲寇。利禦寇。以剛居上、治蒙過剛。故爲擊蒙之象。然取必太過、攻治太深、則必反爲之害。惟捍其外誘以全其眞純、則雖過於嚴密、乃爲得宜。故戒占者如此。凡事皆然、不止爲誨人也。 

○上九

蒙を擊つ。寇を爲すに利ろしからず。寇を禦[ふせ]ぐに利ろし。剛を以て上に居り、蒙を治めて剛に過ぐ。故に蒙を擊つの象と爲す。然れども必を取ること太だ過ぎ、攻め治むること太だ深ければ、則ち必ず反って之が害と爲る。惟其の外誘を捍ぎ以て其の眞純を全うするなれば、則ち嚴密に過ぐと雖も、乃ち宜しきを得ると爲す。故に占者を戒むること此の如し。凡そ事は皆然り、止人を誨うるが爲ならざるなり。

 

 



   乾下:坎上  需 (5)


有孚、光亨。貞吉。利渉大川。需、待也。以乾遇坎。乾健坎險、以剛遇險、而不遽進以陷於險、待之義也。孚、信之在中者也。其卦九五以坎體中實、陽剛中正而居尊位、爲有孚得正之象。坎水在前、乾健臨之。將渉水而不輕進之象。故占者爲有所待、而能有信、則光亨矣。若又得正、則吉、而利渉大川。正固无所不利、而渉川尤貴於能待、則不欲速而犯難也。
 

需(じゅ)

孚[まこと]有れば、光[おお]いに亨る。貞しくして吉なり。大川を渉るに利ろし。需は、待つなり。乾を以て坎に遇う。乾は健にて坎は險、剛を以て險に遇い、而して遽に進みて以て險に陷らざるは、待つの義なり。孚とは、信の中に在る者なり。其の卦の九五は坎の體にて中實、陽剛中正を以て尊位に居り、孚有りて正しきを得るの象と爲す。坎水前に在り、乾健之に臨む。將に水を渉らんとして輕々しく進まざるの象なり。故に占者待つ所有りて、能く信有れば、則ち光いに亨ると爲す。若し又正しきを得れば、則ち吉にして、大川を渉るに利ろし。正固なれば利ろしからざる所无けれども、而して川を渉るは尤も能く待つこと貴ければ、則ち速やかならんことを欲して難を犯さざるなり。


●初九

需于郊。利用恆。无咎。郊、曠遠之地。未近於險之象也。而初九陽剛、又有能恆於其所之象。故戒占者能如是則无咎也。
 

○初九

郊に需[ま]つ。恆に用うるに利ろし。咎无し。郊とは、曠遠の地なり。未だ險に近からざるの象なり。而して初九は陽剛にて、又能く其の所に恆あるの象有り。故に占者を戒むるに、能く是の如くすれば則ち咎无し、と。

 

●九二

需于沙。小有言、終吉。沙、則近於險矣。言語之傷、亦災害之小者、漸進近坎。故有此象。剛中能需。故得終吉。戒占者當如是也。
 

○九二

沙[すな]に需つ。小しく言有れど、終には吉なり。沙は、則ち險に近きなり。言語の傷みも、亦災害の小しき者にて、漸く進んで坎に近づく。故に此の象有り。剛中にて能く需つ。故に終に吉を得。占者を戒むるに、當に是の如くするべし、と。

 

●九三

需于泥。致寇至。泥、將陷於險矣。寇、則害之大者。九三去險愈近、而過剛不中。故其象如此。
 

○九三

泥に需つ。寇の至ることを致す。泥とは、將に險に陷らんとするなり。寇とは、則ち害の大いなる者。九三は險を去ること愈々近く、而して過剛不中。故に其の象此の如し。


●六四

需于血。出自穴。血者、殺傷之地。穴者、險陷之所。四交坎體、入乎險矣。故爲需于血之象。然柔得其正、需而不進。故又爲出自穴之象。占者如是、則雖在傷地而終得出也。
 

○六四

血に需つ。穴より出づ。血は、殺傷の地。穴は、險陷の所。四は坎の體に交わり、險に入る。故に血を需つの象と爲す。然れども柔にて其の正を得、需ちて進まず。故に又穴より出づの象と爲す。占者是の如くすれば、則ち傷地に在ると雖も終に出づるを得るなり。


●九五

需于酒食。貞吉。酒食、宴樂之具、言安以待之。九五陽剛中正、需于尊位。故有此象。占者如是而貞固、則得吉也。
 

○九五

酒食に需つ。貞しくして吉なり。酒食とは、宴樂の具にて、安んじて以て之を待つを言う。九五は陽剛中正にて、尊位に需つ。故に此の象有り。占者是の如くして貞固なれば、則ち吉を得るなり。


●上六

入于穴。有不速之客三人來。敬之終吉。陰居險極、无復有需、有陷而入穴之象。下應九三、九三與下二陽需極並進、爲不速客三人之象。柔不能禦而能順之、有敬之之象。占者當陷險中。然於非意之來、敬以待之、則得終吉也。
 

○上六

穴に入る。速[まね]かざるの客三人來ること有り。之を敬すれば終には吉なり。陰、險の極みに居り、復需つこと有る无く、陷りて穴に入るの象有り。下は九三に應ずれども、九三は下の二陽と需つこと極まり並進めば、速かざる客三人の象と爲す。柔にて禦ぐこと能わずして能く之に順えば、之を敬するの象有り。占者當に險中に陷るべし。然れども非意の來るに於て、敬以て之を待てば、則ち終に吉を得るなり。

 

 

 

 

 

 



   坎下乾上  訟  (6)

 

有孚窒。惕中吉、終凶。利見大人。不利渉大川。窒、張栗反。○訟、爭辯也。上乾下坎、乾剛坎險。上剛以制其下、下險以伺其上。又爲内險而外健、又爲己險而彼健、皆訟之道也。九二中實、上无應與、又爲加憂。且於卦變自遯而來、爲剛來居二、而當下卦之中、有有孚而見窒、能懼而得中之象。上九過剛、居訟之極、有終極其訟之象。九五剛健中正、以居尊位、有大人之象。以剛乘險、以實履陷、有不利渉大川之象。故戒占者必有爭辯之事、而隨其所處爲吉凶也。
 

訟(しょう)

孚[まこと]有れども窒がる。惕れて中なれば吉、終われば凶なり。大人を見るに利ろし。大川を渉るに利ろしからず。窒は、張栗の反。○訟とは、爭辯なり。上は乾にて下は坎、乾は剛にて坎は險。上は剛以て其の下を制し、下は險以て其の上を伺う。又内險にして外健と爲し、又己險にして彼健と爲し、皆訟の道なり。九二は中實にて、上に應與无く、又加憂と爲す。且つ卦變に於ては遯よりして來り、剛來りて二に居り、而して下の卦の中に當たると爲し、孚有りて窒がれ、能く懼れて中を得るの象有り。上九は過剛にて、訟の極みに居り、其の訟を終に極むるの象有り。九五は剛健中正、以て尊位に居り、大人の象有り。剛を以て險に乘り、實を以て陷を履み、大川を渉るに利ろしからずの象有り。故に占者を戒むるに、必ず爭辯の事有れども、而して其の處る所に隨いて吉凶を爲せ、と。

●初六

不永所事。小有言、終吉。陰柔居下、不能終訟。故其象占如此。
 

○初六

事とする所を永くせず。小しく言有れども、終には吉なり。陰柔下に居り、訟を終えること能わず。故に其の象占此の如し。

 

●九二

不克訟。歸而逋。其邑人三百戶、无眚。逋、補吳反。眚、生領反。○九二陽剛、爲險之主、本欲訟者也。然以剛居柔、得下之中、而上應九五、陽剛居尊、勢不可敵。故其象占如此。邑人三百戶、邑之小者。言自處卑約以免災患。占者如是、則无眚矣。
 

○九二

訟えを克せず。歸りて逋[のが]る。其の邑人三百戶なれば、眚[わざわ]い无し。逋は、補吳の反。眚は、生領の反。○九二は陽剛、險の主を爲し、本訟を欲する者なり。然れども剛を以て柔に居り、下の中を得、而して上は九五に應じ、陽剛にて尊きに居り、勢い敵する可からず。故に其の象占此の如し。邑人三百戶とは、邑の小さき者なり。自ら處ること卑約にして以て災患を免るるを言う。占者是の如くなれば、則ち眚い无きなり。

 

 

●六三

食舊德、貞厲。終吉。或從王事、无成。食、猶食邑之食。言所享也。六三陰柔、非能訟者。故守舊居正、則雖危而終吉。然或出而從上之事、則亦必无成功。占者守常而不出則善也。
 

○六三

舊德を食むこと貞しけれど厲うし。終には吉なり。或は王事に從うとも、成すこと无し。食とは、猶食邑の食のごとし。享く所を言うなり。六三は陰柔にて、能く訟する者に非ず。故に舊を守り正しきに居れば、則ち危うしと雖も終には吉なり。然れども或は出でて上の事に從えば、則ち亦必ず功を成すこと无し。占者常を守りて出でざれば則ち善し。


●九四

不克訟。復卽命、渝安貞吉。渝、以朱反。○卽、就也。命、正理也。渝、變也。九四剛而不中。故有訟象。以其居柔。故又爲不克、而復就正理、渝變其心、安處於正之象。占者如是則吉也。
 

○九四

訟えを克せず。復りて命に卽き、渝[か]えて、貞しきに安んずれば吉なり。渝は、以朱の反。○卽は、就くなり。命は、正理なり。渝は、變えるなり。九四は剛にして不中。故に訟の象有り。其の柔に居るを以て。故に又克せずして、復りて正理に就き、其の心を渝變して、正しきに安んじて處るの象と爲す。占者是の如くなれば則ち吉なり。


●九五

訟、元吉。陽剛中正以居尊位、聽訟而得其平者也。占者遇之、訟而有理、必獲伸矣。 

○九五

訟え、元[おお]いに吉なり。陽剛中正以て尊位に居り、訟を聽きて其の平を得る者なり。占者之に遇えば、訟えて理有れば、必ず伸を獲るなり。


●上九

或錫之鞶帶、終朝三褫之。褫、敕紙反。○鞶帶、命服之飾。褫、奪也。以剛居訟極、終訟而能勝之。故有錫命受服之象。然以訟得之、豈能安久。故又有終朝三褫之象。其占爲終訟无理而或取勝、然其所得、終必失之。聖人爲戒之意深矣。
 

○上九

或は之に鞶帶を錫[たま]わるも、朝を終ゆるまでに三たび之を褫[うば]わる。褫は、敕紙の反。○鞶帶は、命服の飾り。褫は、奪うなり。剛を以て訟の極みに居り、訟を終えて能く之に勝つ。故に命を錫い服を受くの象有り。然れども訟を以て之を得れば、豈能く安んじて久しからん。故に又終朝三褫の象有り。其の占は訟を終え理无くして或は勝を取るとも、然れども其の得る所は、終には必ず之を失うと爲す。聖人の戒めと爲すの意深し。

 

 



   坎下:坤上  師  (7)



貞。丈人吉无咎。師、兵衆也。下坎上坤、坎險坤順、坎水坤地。古者寓兵於農。伏至險於大順、藏不測於至靜之中。又卦唯九二一陽居下卦之中、爲將之象。上下五陰順而從之、爲衆之象。九二以剛居下而用事、六五以柔居上而任之、爲人君命將出師之象。故其卦之名曰師。丈人、長老之稱。用師之道、利於得正、而任老成之人、乃得吉而无咎。戒占者亦必如是也。
 

貞なり。丈人なれば吉にして咎无し。師とは、兵衆なり。下は坎にて上は坤、坎は險にて坤は順、坎は水にて坤は地。古は兵を農に寓す。至險を大順に伏し、不測を至靜の中に藏す。又卦は唯九二のみ一陽にて下の卦の中に居り、將の象と爲す。上下の五陰は順にして之に從い、衆の象と爲す。九二は剛を以て下に居りて事を用い、六五は柔を以て上に居りて之に任ずれば、人君の將に命じ師を出だすの象と爲す。故に其の卦の名を師と曰う。丈人とは、長老の稱。師を用うるの道は、正しきを得るに利ろしくして、老成の人に任ずれば、乃ち吉にして咎无きを得。占者を戒むるに、亦必ず是の如くすべし、と。


●初六

師出以律。否臧凶。律、法也。否臧、謂不善也。晁氏曰、否字、先儒多作不、是也。在卦之初、爲師之始。出師之道、當謹其始。以律則吉、不臧則凶。戒占者當謹始而守法也。
 

○初六

師は出づるに律を以てす。否臧なれば凶なり。律とは、法なり。否臧とは、不善なるを謂うなり。晁氏曰く、否の字、先儒多く不に作るとは、是なり。卦の初めに在り、師の始めと爲す。師を出づるの道は、當に其の始めを謹むべし。律を以てすれば則ち吉にて、否臧なれば則ち凶。占者を戒むるに、當に始めを謹みて法を守るべし、と。


●九二

在師中。吉无咎。王三錫命。九二在下、爲衆陰所歸、而有剛中之德。上應於五、而爲所寵任。故其象占如此。
 

○九二

師に在りて中す。吉にして咎无し。王三たび命を錫う。九二は下に在り、衆陰の歸する所と爲して、剛中の德有り。上は五に應じて、寵任する所と爲す。故に其の象占此の如し。


●六三

師或輿尸。凶。輿尸、謂師徒撓敗、輿尸而歸也。以陰居陽、才弱志剛、不中不正、而犯非其分。故其象占如此。
 

○六三

師或は尸を輿[の]す。凶なり。尸を輿すとは、師徒撓敗し、尸を輿せて歸るを謂うなり。陰を以て陽に居り、才弱けれども志剛く、不中不正にして、其の分に非ざるを犯す。故に其の象占此の如し。

 

●六四

師左次。无咎。左次、謂退舍也。陰柔不中、而居陰得正。故其象如此。全師以退、賢於六三遠矣。故其占如此。
 

○六四

師左次す。咎无し。左次すとは、舍を退くを謂うなり。陰柔にて不中、而して陰に居り正を得。故に其の象此の如し。師を全くして以て退くは、六三に賢なること遠し。故に其の占此の如し。

 

●六五

田有禽。利執言。无咎。長子帥師。弟子輿尸。貞凶。長、之丈反。○六五用師之主、柔順而中、不爲兵端者也。敵加於己、不得已而應之。故爲田有禽之象、而其占利以搏執而无咎也。言、語辭也。長子、九二也。弟子、三・四也。又戒占者專於委任。若使君子任事、而又使小人參之、則是使之輿尸而歸。故雖貞而亦不免於凶也。
 

○六五

田[かり]して禽有り。言を執るに利ろし。咎无し。長子は師を帥ゆ。弟子は尸を輿す。貞なるとも凶なり。長は、之丈の反。○六五は師を用うるの主にて、柔順にして中、兵端を爲さざる者なり。敵己に加えて、已むことを得ずして之に應ず。故に田して禽有りの象と爲し、而して其の占は以て搏執するに利ろしくして咎无きなり。言とは、語辭なり。長子とは、九二なり。弟子とは、三・四なり。又占者を戒むるに委任に專らなれ、と。若し君子をして事を任ぜしめ、而して又小人に之に參ぜしめば、則ち是れ之に尸を輿せて歸せしむ。故に貞と雖も而して亦凶を免れざるなり。


●上六

大君有命。開國承家。小人勿用。師之終、順之極、論功行賞之時也。坤爲土。故有開国承家之象。然小人則雖有功、亦不可使之得有爵土、但優以金帛可也。戒行賞之人。於小人則不可用此占。而小人遇之、亦不得用此爻也。 

○上六

大君命有り。國を開き家を承く。小人は用うること勿かれ。師の終わり、順の極み、功を論じ賞を行うの時なり。坤を土と爲す。故に国を開き家を承くの象有り。然れども小人は則ち功有りと雖も、亦之に爵土を有つことを得せしむ可からず、但優れるに金帛を以てするは可なり。賞を行う人を戒む。小人に於ては則ち此の占を用ゆ可からず。而して小人之に遇えば、亦此の爻を用うることを得ざるなり。

 

 



   坤下:坎上  比 (8)



吉。原筮、元永貞、无咎。不寧方來。後夫凶。比、毗意反。○比、親輔也。九五以陽剛居上之中而得其正。上下五陰、比而從之。以一人而撫萬邦、以四海而仰一人之象。故筮者得之、則當爲人所親輔。然必再筮以自審、有元善長永正固之德、然後可以當衆之歸而无咎。其未比而有所不安者、亦將皆來歸之。若又遲而後至、則此交已固、彼來已晩、而得凶矣。若欲比人、則亦以是而反觀之耳。
 

比(ひ)

吉なり。原[ふたた]び筮し、元永貞なれば、咎无し。寧からざるものも方に來らん。後夫は凶なり。比は、毗意の反。○比は、親しみ輔くなり。九五は陽剛を以て上の中に居りて其の正を得。上下の五陰は、比して之に從う。一人を以てして萬邦を撫し、四海を以てして一人を仰ぐの象なり。故に筮者之を得れば、則ち當に人の親しみ輔くる所と爲るべし。然れども必ず再筮して以て自ら審らかにして、元善長永正固の德有り、然して後に以て當に衆之れ歸すべくして咎无かる可し。其の未だ比せずして安んぜざる所有る者も、亦將に皆來りて之に歸せんとす。若し又遲れて後に至れば、則ち此の交わり已に固く、彼來ること已に晩くして、凶を得るなり。若し人に比せんと欲せば、則ち亦是を以て之を反觀するのみ。

●初六

有孚比之。无咎。有孚盈缶。終來有他吉。缶、俯九反。他、湯何反。○比之初、貴乎有信、則可以无咎矣。若其充實、則又有他吉也。
 

○初六

孚有りて之に比す。咎无し。孚有りて缶[ほとぎ]に盈つ。終に來りて他の吉有り。缶は、俯九の反。他は、湯何の反。○比の初めは、信有るを貴べば、則ち以て咎无かる可し。若し其れ充實すれば、則ち又他の吉有るなり。


●六二

比之自内。貞吉。柔順中正、上應九五、自内比外而得其貞。吉之道也。占者如是、則正而吉矣。 

○六二

之に比すこと内よりす。貞しくして吉なり。柔順中正にて、上は九五に應じ、内より外に比して其の貞しきを得。吉の道なり。占者是の如くなれば、則ち正しくして吉なり。


●六三

比之匪人。陰柔不中正、承・乘・應皆陰、所比皆非其人之象。其占大凶、不言可知。 

○六三

之に比せんとすれど人に匪ず。陰柔にて不中正、承・乘・應は皆陰にて、比す所は皆其の人に非ずの象なり。其の占大凶なること、言わずして知る可し。


●六四

外比之。貞吉。以柔居柔、外比九五、爲得其正。吉之道也。占者如是、則正而吉矣。
 

○六四

外之に比す。貞しくして吉なり。柔を以て柔に居り、外は九五に比し、其の正を得ると爲す。吉の道なり。占者是の如くなれば、則ち正しくして吉なり。

 

●九五

顯比。王用三驅失前禽。邑人不誡。吉。一陽居尊、剛健中正、卦之羣陰皆來比己。顯其比而无私、如天子不合圍、開一面之網、來者不拒、去者不追。故爲用三驅失前禽而邑人不誡之象。蓋雖私屬、亦喩上意、不相警備以求必得也。凡此皆吉之道、占者如是則吉也。
 

○九五

比を顯らかにす。王三驅を用いて前禽を失う。邑人誡めず。吉なり。一陽尊きに居り、剛健中正、卦の羣陰皆來りて己に比す。其の比をを顯らかにして私无きこと、天子圍を合わさず、一面の網を開き、來る者は拒まず、去る者は追わざるが如し。故に三驅を用いて前禽を失いて邑人誡めずの象と爲す。蓋し私屬と雖も、亦上意を喩り、相警備して以て必ず得んことを求めざるならん。凡そ此れ皆吉の道にて、占者是の如くなれば則ち吉なり。

 

●上六

比之无首。凶。陰柔居上、无以比下。凶之道也。故爲无首之象、而其占則凶也。 

○上六

之に比すに首无し。凶なり。陰柔にて上に居り、以て下に比する无し。凶の道なり。故に首无しの象と爲し、而して其の占は則ち凶なり。

 

 



    乾下:巽上  小畜 (9)



小畜

亨。密雲不雨。自我西郊。畜、敕六反。大畜卦同。○巽、亦三畫卦之名。一陰伏於二陽之下。故其德爲巽爲入、其象爲風爲木。小、陰也。畜、止之之義也。上巽下乾、以陰畜陽。又卦唯六四一陰、上下五陽皆爲所畜。故爲小畜。又以陰畜陽、能係而不能固、亦爲所畜者小之象。内健外巽、二・五皆陽、各居一卦之中而用事、有剛而能中、其志得行之象。故其占當得亨通。然畜未極而施未行。故有密雲不雨、自我西郊之象。蓋密雲、陰物。西郊、陰方。我者、文王自我也。文王演易於羑里、視岐周爲西方。正小畜之時也。筮者得之、則占亦如其象云。
 

小畜(しょうちく)

亨る。密雲あれど雨ふらず。我が西郊よりす。畜は、敕六の反。大畜の卦も同じ。○巽とは、亦三畫卦の名。一陰、二陽の下に伏す。故に其の德は巽うと爲し入ると爲し、其の象は風と爲し木と爲す。小とは、陰なり。畜とは、之を止むるの義なり。上は巽にて下は乾、陰を以て陽を畜[とど]む。又卦は唯六四のみ一陰にて、上下五陽は皆畜むる所と爲す。故に小畜と爲す。又陰を以て陽を畜むれば、能く係けて固くすること能わず、亦畜むる所の者小しきの象と爲す。内は健にて外は巽、二・五皆陽にて、各々一卦の中に居りて事を用い、剛にして能く中なれば、其の志行うを得るの象有り。故に其の占は當に亨通を得べし。然れども畜むること未だ極まらずして施し未だ行われず。故に密雲有れども雨ふらず、我が西郊よりすの象あり。蓋し密雲は、陰物。西郊は、陰の方。我は、文王の自ら我なり。文王は易を羑里に演じ、岐周を視て西方と爲す。正に小畜の時なり。筮者之を得れば、則ち占も亦其の象の如しと云う。
 


●初九

復自道。何其咎。吉。復、芳六反。二爻同。○下卦乾體、本皆在上之物。志欲上進而爲陰所畜。然初九體乾、居下得正、前遠於陰、雖與四爲正應、而能自守以正、不爲所畜。故有進復自道之象。占者如是、則无咎而吉也。
 

○初九

復ること道よりす。何ぞ其れ咎あらん。吉なり。復は、芳六の反。二爻も同じ。○下の卦は乾の體にて、本皆上に在る物なり。志上り進まんと欲して陰の畜むる所と爲す。然れども初九の體は乾にて、下に居りて正を得、前は陰に遠ざかり、四と正應を爲すと雖も、而して能く自ら守るに正しきを以てし、畜むる所と爲らず。故に進み復ること道によるの象有り。占者是の如くなれば、則ち咎无くして吉なり。


●九二

牽復。吉。三陽志同、而九二漸近於陰。以其剛中、故能與初九牽連而復。亦吉道也。占者如是、則吉也。
 

○九二

牽きて復る。吉なり。三陽は志同じくして、九二は漸く陰に近づく。其の剛中なるを以て、故に能く初九と牽き連ねて復る。亦吉の道なり。占者是の如くなれば、則ち吉なり。


●九三

輿說輻。夫妻反目。說、吐活反。○九三亦欲上進。然剛而不中、迫近於陰、而又非正應。但以陰陽相說而爲所係畜、不能自進。故有輿說輻之象。然以志剛、故又不能平而與之爭。故又爲夫妻反目之象。戒占者如是、則不得進而有所爭也。
 

○九三

輿[くるま]輻[とこしばり]を說[だっ]す。夫妻目を反く。說は、吐活の反。○九三も亦上り進まんと欲す。然れども剛にして不中、陰に迫り近づいて、又正應に非ず。但陰陽相說ぶを以て係畜する所と爲り、自ら進むこと能わず。故に輿輻を說すの象有り。然れども志剛きを以て、故に又平なること能わずして之と爭う。故に又夫妻目を反くの象を爲す。占者を戒むるに、是の如くすれば、則ち進むことを得ずして爭う所有り、と。


●六四

有孚。血去惕出。无咎。去、上聲。○以一陰畜衆陽。本有傷害憂懼、以其柔順得正、虛中巽體、二陽助之。是有孚而血去惕出之象也。无咎宜矣。故戒占者亦有其德、則无咎也。
 

○六四

孚有り。血[いた]み去り惕れ出づ。咎无し。去は、上聲。○一陰を以て衆陽を畜む。本傷害憂懼有れども、其の柔順にて正を得、虛中にて巽の體なるを以て、二陽之を助く。是れ孚有りて血み去り惕れ出づの象なり。咎无きこと宜なり。故に占者を戒むるに、亦其の德有れば、則ち咎无し、と。


●九五

有孚攣如。富以其鄰。攣、力專反。○巽體三爻、同力畜乾。鄰之象也。而九五居中處尊、勢能有爲、以兼上下。故爲有孚攣固、用富厚之力而以其鄰之象。以、猶春秋以某師之以。言能左右之也。占者有孚、則能如是也。
 

○九五

孚有りて攣如[れんじょ]たり。富みて其の鄰を以[ひき]いる。攣は、力專の反。○巽の體の三爻は、力を同じくして乾を畜む。鄰の象なり。而して九五は中に居り尊きに處り、勢い能く爲すこと有りて、以て上下を兼ぬ。故に孚有りて攣固たり、富厚の力を用いて其の鄰を以いるの象を爲す。以とは、猶春秋に某の師を以いるの以のごとし。能く之を左右するを言うなり。占者孚有れば、則ち能く是の如し。

 

 

●上九

旣雨旣處。尙德載。婦貞厲。月幾望。君子征凶。幾、音機。歸妹卦同。○畜極而成、陰陽和矣。故爲旣雨旣處之象。蓋尊尙陰德、至於積滿而然也、陰加於陽。故雖正亦厲。然陰旣盛而抗陽、則君子亦不可以有行矣。其占如此、爲戒深矣。
 

○上九

旣に雨ふり旣に處る。德の載[み]つるを尙ぶ。婦は貞なれど厲[あや]うし。月望に幾[ちか]し。君子征けば凶なり。幾は、音機。歸妹の卦も同じ。○畜むること極まりて成り、陰陽和す。故に旣に雨ふり旣に處るの象と爲す。蓋し陰の德、積んで滿つるに至りて然るを尊尙すれば、陰、陽を加う。故に正しきと雖も亦厲うし。然して陰旣に盛んにして陽に抗えば、則ち君子も亦以て行うこと有る可からず。其の占此の如く、戒めを爲すこと深し。

 

 



   兌下:乾上  履 (10)



履虎尾、不咥人。亨。咥、直結反。

○兌、亦三畫卦之名。一陰見於二陽之上。故其德爲說、其象爲澤。履、有所躡而進之義也。以兌遇乾、和說以躡剛強之後、有履虎尾而不見傷之象。故其卦爲履、而占如是也。人能如是、則處危而不傷矣。
 


 

虎の尾を履むも、人を咥[くら]わず。亨る。咥は、直結の反。

○兌とは、亦三畫卦の名。一陰、二陽の上に見る。故に其の德を說ぶと爲し、其の象を澤と爲す。履とは、躡[ふ]む所有りて進むの義なり。兌を以て乾に遇い、和說して以て剛強の後を躡み、虎の尾を履んで傷つけられずの象有り。故に其の卦を履と爲して、占は是の如し。人能く是の如くなれば、則ち危うきに處りて傷つかざるなり。

 

●初九

素履。往无咎。以陽在下、居履之初、未爲物遷、率其素履者也。占者如是、則往而无咎也。
 

○初九

素履す。往くも咎无し。陽を以て下に在り、履の初めに居り、未だ物遷ると爲さず、其の素履に率う者なり。占者是の如くなれば、則ち往きて咎无きなり。

 

 

●九二

履道坦坦。幽人貞吉。剛中在下、无應於上。故爲履道平坦、幽獨守貞之象。幽人履道而遇其占、則貞而吉矣。
 

○九二

道を履むこと坦坦たり。幽人貞しくして吉なり。剛中にて下に在り、上に應无し。故に道を履むこと平坦にて、幽獨貞しきを守るの象と爲す。幽人道を履みて其の占に遇えば、則ち貞しくして吉なり。


●六三

眇能視、跛能履。履虎尾、咥人凶。武人爲于大君。跛、波我反。○六三不中不正、柔而志剛。以此履乾、必見傷害。故其象如此、而占者凶。又爲剛武之人、得志而肆暴之象。如秦政・項籍、豈能久也。 

○六三

眇[すがめ]にして能く視るとし、跛[あしなえ]にして能く履むとす。虎の尾を履めば、人を咥いて凶なり。武人大君と爲る。跛は、波我の反。○六三は不中不正、柔にして志剛し。此を以て乾を履めば、必ず傷つき害せらる。故に其の象此の如くして、占者は凶。又剛武の人、志を得て肆暴するの象と爲す。秦政・項籍の如き、豈能く久しからんや。


●九四

履虎尾。愬愬終吉。愬、山革反。音色。○九四亦以不中不正、履九五之剛。然以剛居柔。故能戒懼而得終吉。
 

○九四

虎の尾を履む。愬愬[さくさく]たれば終には吉なり。愬は、山革の反。音色。○九四も亦不中不正を以て、九五の剛を履む。然れども剛を以て柔に居る。故に能く戒懼して終には吉を得。


●九五

夬履。貞厲。夬、古快反。○九五以剛中正履帝位、而下以兌說應之。凡事必行、无所疑礙。故其象爲夬決其履。雖使得正、亦危道也。故其占爲雖正而危。爲戒深矣。

○九五

履むことを夬す。貞しけれども厲[あや]うし。夬は、古快の反。○九五は剛中正を以て帝位を履み、而して下は兌說を以て之に應ず。凡そ事は必ず行い、疑礙する所无し。故に其の象は其の履を夬決すと爲す。正しきを得せしむと雖も、亦危うき道なり。故に其の占は正しきと雖も而して危うしと爲す。戒めを爲すこと深し。


●上九

視履考祥。其旋元吉。視履之終以考其祥。周旋无虧、則得元吉。占者禍福、視其所履而未定也。
 

○上九

履むを視て祥を考う。其れ旋[めぐ]れば元いに吉なり。履むの終わりを視て以て其の祥を考う。周旋して虧くこと无ければ、則ち元いに吉を得。占者の禍福は、其の履む所を視て未だ定まらざるなり。

 



 

 

参考文献:國子監刊本『周易本義』(華聯出版社)及び懐徳堂文庫本『周易雕題』

 

 

 

TOPに戻る